更新情報
2022年6月 茶況_No.382
産地情報
令和4年6月1日
茶園では二番茶の摘採に向けて管理作業が進められています。適度な雨もあり生育は順調ですが、気温が低い日が続きますので芽伸びはやや遅れ気味です。二番茶は適期と梅雨が重なりますので、雨の合間を見ながらの摘採となりますので、刈り遅れが出ないように摘採計画を立ててスタートします。二番茶は初期のミル芽品が量販店向けのリーフ茶の原料として使われ、中盤以降は主にドリンク原料に使われます。終盤にドリンク関連業者が大口で仕入を始めると下落が止まり相場が堅調傾向になりますが、今年はドリンク関連の引き合いが強くないといった声も聞かれます。一茶で下物まで仕入ができた茶商は二茶仕入に消極的です。単価の低迷や生産コストの上昇で生産中止の検討も必要との声も出始めました。収入を補うために、野菜や果物などの補完作物を栽培する動きが広がっています。
産地問屋は、間もなく始まる二番茶の仕入計画を立てています。二番茶需要は量販店リーフ茶、ドリンク原料、会社納品、業務用茶に限られていますが、会社納品と飲食店業務用は極端に減少しています。需要動向が見通せない中、相場動向を見極めながらの仕入となりそうです。2021年の静岡県の荒茶生産量は29.700トン全国の42%を占めトップでした。2位は鹿児島県で26.500トン(37%)、3位は三重県5360トン(8%)と続きます。静岡県のピークは1975年の52.989トンで全国の過半数を占めていましたが、最近の10年間は2万~3万トン台で低迷しています。金額も2000年頃は700億円を超えていましたが減少が続き2020年は203億円と1/3以下迄落ち込みました。静岡県の茶農家の生き残りが課題になっています。一戸当たりの栽培面積平均は鹿児島3.6haに対して静岡は1.4haと弱少気味です。経営面積の拡大は必須条件となっています。
産地問屋は取引先の廃業、上級茶の販売不振、資材・燃料の高騰、コロナ対策資金返済などが経営を圧迫し苦境に直面しています。
消費地では「中元商戦」の準備を進めています。昔のように新茶・新茶と珍重され贈られるという季節感が年々薄くなっていますので、反応は依然として低調で苦戦しています。しかも景気は不透明で種々の物価高により消費マインドは低迷し、将来への不安のために使えるはずのお金さえ貯めるという傾向が続いています。政府は夏の参議員選に向けた、新しい資本主義、食糧安全保障、物価高騰対策などの「骨太の方針」を示し、将来への不安を少しでも和らげて消費を伸ばしお金が天下を回るようにする算段です。消費者物価が高騰して消費マインドは冷えに冷えていますので賃上げによる所得増と社会保障の充実が整えば消費も上向きますので賃上げと社会保障は最重要課題です。 一番茶取引では、選別買いの姿勢が目立ちドリンク関連業者の仕入れは低調でした。専門店からの受注も弱く小口の仕入れを徹底する問屋が多く、早朝の取引で売れ残った荷は値引きを余儀なくされ最後まで軟調相場が続きました。二番茶も一茶取引に続きドリンク関連の仕入れは膨らまないとの見方がありますので更新茶園を増やして二茶生産を見送る生産者もいます。重油や肥料などの経費も高騰していますので販売に苦戦したり価格安になれば二茶の生産を中止する茶工場も出そうですので、二番茶は始まる前から減収が予想されています。
1985地域振興計画支援事業報告書
現在の茶業の情勢は、生産者の高齢化や後継者不足、生産意欲の低下による農家の廃業や製茶工場の解散により耕作放棄地の増加といった負の連鎖が止まりません。生活様式の洋風化によりリーフ茶需要減少、茶価の低迷、生産者の廃業による荒廃茶園の拡大などの厳しい状況が続いています。第一次産業の疲弊はますます進み静岡県の茶生産が存亡の危機に立たされています。収入の安定化が急務であり流通構造改革は待ったなしの状況です。
私の手元に37年前にJA掛川市がおこなった産地診断調査の資料があります。1988年の新幹線掛川駅の開業や浜松テクノポリス計画の展開に伴う企業進出や宅地開発で掛川市の農業が大きく変容することが予想されたための調査です。今後の農協経営と農業指導の方向付けとビジョンづくりの必要に迫られての調査でした。このレポートは「地域振興計画支援事業報告書」との名称でした。「掛川茶」は農業粗生産額の5割にあたる主幹作物で「掛川の深むし茶」は、当時から知名度の高い産地ブランドとなっていました。この掛川茶業がどんな問題をかかえ、これからどういう方向をたどろうとしているのか静岡県茶業の将来を予測する、ひとつのモデルになるという意味で当時は関心の高い調査報告書となりました。当時の問題点①働き手の不足と老齢化と三ちゃん農業(母ちゃん、爺ちゃん、婆ちゃんに頼らざるをえない)兼業農家が激増して専業農家は全体の1割。所有農地の反別が小さくて農業だけでは食っていけないと指摘しています。問題点②茶流通をめぐる組織の見直し、茶市場とJA製茶工場の機能の違いを意識して分化させていくことが課題である。JA製茶工場が市場に介入して買い支えをするのは極めて困難であり、このことは市場の歴史が証明している。在庫の圧迫がむしろ価格の低迷を長期化するおそれがある。
アンケート結果の全体が示すように37年前にも生産農家には茶業の将来展望については悲観的な見方が強くありました。それにも関わらず形態を変えていこうとする指向は強くなく、様子を見ながら成行きにまかせるといった傾向が強いように見受けられました。茶業界の経営危機は37年前も今も同じ根源から派生しています。
1.高齢化 2.後継者不足 3.需要創出と消費拡大 4.需給のアンバランスによる在庫過多 5.マーケティングの強化です。
37年前の資料を改めて見直しますと何も変わっていない業界事情に気付きます。コロナ禍やウクライナ侵攻による食糧危機など先行きは、ますます見通しづらくなっています。見通しづらい中で変化する環境に対応するには、何を変えて何を変えないのか。茶産地掛川の生き残りを掛けた新たな指針「掛川茶未来創造プロジェクト」がスタートしました。 茶価の低迷により生産者の多数が生産意欲を低下させ将来への展望が描けずにいます。お茶を諦めて他の農産物への転換も数多く見られます。個々の生産者の努力だけでは立ち行かない危機的な現在の状況を生産者・JA・茶商社・市・県が官民一体で改革に取り組み、将来展望を協議して実行し、農業経営の安定化を目指します。掛川市は経営茶園面積の減少にブレーキをかけ1000haの茶園を継続確保します。生産者の収益性を安定させ茶生産金額を現状の31億円から40億円を目標に設定します。10年後も掛川が世界に誇る「お茶のまち」であるためにプロジェクトがスタートしました。生き残りを掛けた掛川市の挑戦に期待が集まり、その成り行きが注目されています。
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