更新情報
2025年6月 茶況_No.415
産地情報
令和7年6月30日
茶 況
二番茶の製造は続いていますが終了する工場も出始めました。終了した茶園では更新作業や防除・施肥などの管理作業を進めています。今年の二番茶は芽伸びが遅く、例年ですと一番茶摘採後43日~45日が二番茶の適期となるのですが、今年は50日前後かかり6月中旬からの摘採となりました。昨年夏の猛暑と雨不足により樹勢が衰えたことと今年に入ってからの不安定な気候が影響しています。生産量は受注生産に徹した昨年を上回る見込みですが、価格は「二茶バブル」と言われるくらい高値で、昨年比2倍で推移し最後まで売り手優位の展開で終了を迎えそうです。各問屋とも「ここまで極端な展開になるとは想像できなかった。令和の米騒動と同じように茶業界の転換期を印象付けられた」と振り返ります。要因としては一番茶が高値で終了したためにドリンク関連業者が二番茶で数量確保に動いたことと、昨年の茶価大暴落により廃業した農家が多数出たために毎日の出荷本数が少なくピークらしいピークが無かったことで毎日の取引もほとんど値押しもなく本数の配分が斡旋業者の仕事で、今までに経験したことのない取引に終始しました。掛川では問屋と農家との信頼関係もあり、生産者は一番茶を買っている問屋に優先的に荷を分けていますので、二番茶からの注文はお断りする状況でした。価格も妥協点を探りながら、お互いに納得できる価格で手合わせしています。しかし、各問屋とも予定数量の確保は出来なかったようです。ここまでの強い相場展開は静岡では過去に例がありませんが、鹿児島茶市場では下値が上昇して出荷茶の取り合いが過熱して終了しました。今までは鹿児島から静岡へ荷が集まっていましたが、今年は静岡から鹿児島へ荷が流れることも耳にします。静岡茶市場では「静岡が最も安い産地市場になってしまった」との声も聞かれ危機感を募らせています。ドリンク関連の旺盛な買いを反映して例年以上に形状物の出回りが多く、茶園の一部を碾茶生産に切り替えている工場もありますので「深蒸し茶」を製造する工場が少なくなっています。今までに経験したことのない下げ幅の小さい、高価格で最後まで相場は下がりませんでした。9月末から始まる「秋冬番茶」もドリンク関連の買いが続き、今までにない「高価格」での相場が予想されます。 昨年2024年の一番茶・二番茶の大暴落は生産現場にかってないほどの大打撃を与えました。生産者からは悲痛な声が上がり「もうお茶では生活できない」と廃業した県内茶工場は33工場に上ります。荒茶生産量全国1位の座からの陥落は必然ともいえる結果でした。今年は伸長する海外抹茶需要に対応して被覆シートを用意して茶園の一部を碾茶生産に切り替えた工場もあります。静岡県は販路開拓、ブランド戦略、生産基盤強化を柱にした「静岡茶の海外戦略」を策定して、25年度当初予算に4億2600万円の支援金を計上し長年の課題に正面からテコ入れを図ります。そこで、世界に通用する「静岡茶」ブランドの再構築を目指して、総合プロデューサーを佐藤可士和氏に依頼しました。佐藤氏は「ユニクロ」や「今治タオル」などのブランド戦略を手掛けてきた実績があり、その知見と手腕に期待しています。当然、生産者・茶商・行政も参加して課題を洗い出し、今年度内にブランドコンセプトやロゴマークを策定する予定です。静岡茶が変われば首位奪還も夢ではありません。米相場もお茶相場も大きな転換点を迎えています。 県内の「台切り茶」も鹿児島の「三番茶」も高値が続いています。9月末から製造の「秋冬番茶」も例年以上の高価格になると予想されますので、今から用意周到な準備をしておいてください。
杜 子 春
「令和の米騒動」に揺れる今年は連日のようにコメの販売価格や備蓄米放出のニュースが報じられています。今回の米騒動は需要と供給の見立てを誤り必要な量に対して十分な生産が出来ていなかったことに尽きます。近年は米離れにより需要量が毎年10万トンづつ減ることを予測して転作する農家には補助金を出して生産量を抑えてきました。しかし、今回の米騒動を受けて小泉農林水産大臣は、今まで見立てを誤ったことも事実と認めた上で「水田政策のあり方を大きく転換していこうと考えている」と発言しました。今後の農業政策のあり方は、食料の6割超を輸入に依存している構造を変えていくために農業の構造転換が最重要課題です。米の生産を抑えてきた長年の政策を増産へと転換し安定供給に繋げるためには価格が下落した際の農家の所得補償も視野に進められます。増産の具体策として①農家数と農地面積の確保②農地の大区画による低コスト生産の推進③スマート農業技術の加速化などが上げられます。そして、年1回は数値目標の達成状況を公表して方策を見直していく方針です。全国の農地422万haの内33%の140万haで10年後の担い手がいないという調査結果もあります。10年後に誰が農地を担うのかを明確にする計画が「2023改正農業経営基盤強化促進法」です。農業の生産量を確保して安定供給できる体制づくりです。1920年に日本初の国勢調査が行われましたが、当時は就業者の約50%が農業に従事していたそうです。それから100年後の2020年の国勢調査では農業従事者は全体の3%にまで低下しています。この100年間に農業の機械化・効率化が進み多くの人々が農村を離れても生活が維持できるようになりましたが、このまま農業従事者が減り続ければ生産量が減少して食料安全保障にも重大な影響を及ぼしかねない事態です。農業は私達が生きていく上で欠かせない食料を生産し、安全・安心で新鮮な食べ物を供給するという重要な役割を担っています。現在は食料自給率は38%まで下がり輸入に頼っているのが現実です。農業が抱える問題としては、高齢により離農する農家の増加、重労働の割に収入が少ない、というイメージから新規就農者が増えずに人手不足に陥っていることです。日本の農業政策はコメ不足も含めて消費者の懐と農家の持続可能性の間で今まさに再調整の局面を迎えています。日本で初めての国勢調査が行われた1920年に芥川龍之介は小説「杜子春」を発表しました。主人公の杜子春は謎の老人に黄金のありかを教えてもらい、一夜にして大金持ちになります。噂を聞いた人々がこぞって杜子春のもとを訪れ賑やかで贅沢な暮らしが始まります。しかし、お金が底をついたとたん、誰もが手のひらを返すように冷たくなります。お金の有無で態度を変える人間に嫌気がさした杜子春は黄金のありかを教えてくれた老人が仙人だと見抜き「自分を仙人にしてほしい」と頼みます。老人は杜子春の願いを聞き入れ弟子にします。そして「自分が戻るまでは何があっても声を出してはならない」と命じます。それからの杜子春は、どんな苦しい目に遭っても声を出さずに耐え忍びます。しかし、地獄で馬に変えられた両親に出会い、鞭で打たれて倒れた母の声を聞いた時、思わず「お母さん」と叫んでしまいました。それまでの苦労は水の泡となり杜子春は仙人になる資格を失います。しかし杜子春は人間にとってもっとも大切なものに気付き人間らしく正直に生きることを決めます。仙人は杜子春に「両親が鞭で打たれてもあのまま黙っていたらお前の命を絶とうと思っていた」と告げ、家と畑を与えて去っていきました。杜子春が仙人から最後に与えられたものが財宝でなく畑だったことの意味を改めて考えさせられます。先人たちは荒地を開き水田を広げてきました。水田を守らなければ国土は守れない。食べる物を安定供給できるようにすることは何よりも最優先課題であることを、今回の「令和の米騒動」は日本の食料問題をもう一度考え直すきっかけになりました。
- アーカイブ
-
- 2025年7月 (1)
- 2025年6月 (1)
- 2025年5月 (1)
- 2025年4月 (1)
- 2025年3月 (4)
- 2025年2月 (2)
- 2025年1月 (1)
- 2024年12月 (2)
- 2024年11月 (3)
- 2024年10月 (10)
- 2024年9月 (17)
- 2024年8月 (19)
- 2024年6月 (1)
- 2024年5月 (1)
- 2024年4月 (1)
- 2024年3月 (2)
- 2024年1月 (1)
- 2023年12月 (1)
- 2023年11月 (1)
- 2023年10月 (1)
- 2023年8月 (4)
- 2023年6月 (2)
- 2023年5月 (3)
- 2023年4月 (2)
- 2023年3月 (3)
- 2023年2月 (2)
- 2023年1月 (3)
- 2022年12月 (6)
- 2022年11月 (4)
- 2022年10月 (5)
- 2022年9月 (4)
- 2022年8月 (3)
- 2022年7月 (6)
- 2022年6月 (1)
- 2022年5月 (1)
- 2022年4月 (2)
- 2022年3月 (1)
- 2022年2月 (1)
- 2022年1月 (1)