更新情報
2022年2月 茶況_No.378
産地情報
令和4年2月15日
冬の茶園は、まもなく訪れる春を待ちながら厳しい寒さに耐えています。先週10日には、関東地方と静岡県東部・北部の各地で記録的な大雪になり慣れない雪に戸惑いました。生産者は春肥の準備など管理作業を進めながら白ネギやレタス・イチゴなどを出荷して収入減を補っています。
30年前に700億円あった静岡県の茶産出額は2019年251億円、2020年203億円と茶生産だけでは経営が成り立たない状況に来ていますので「複合作物」を取り入れて収入減を補い、持続可能な農業を目指しています。周囲の茶農家が高齢化して管理できなくなった茶園を託されて規模拡大している茶農家もあります。
会社組織にして社員として年間雇用し、茶製造のない冬場は種々の農産物を収穫しています。静岡県茶業振興計画(2022~2025)が発表されましたが「生産者の経営安定と持続可能な両立」を掲げ静岡県茶業の再生を目指すとしています。業種を越えて技術やアイデアを持ち寄るオープンイノベーションの手法を取り入れた「チャオイプロジェクト」が始動し、リーダーを養成する「農林環境専門職大学」が磐田市に、茶文化の拠点「茶の都ミュージアム」が牧之原市に開設されました。他国にも学びます。面積が九州と同じで耕地面積は日本の4割なのに農産物出荷額は米国に次ぐ2位のオランダ。収益性の高い作物への特化と効率的な経営のオランダ農業に学ぼうと勉強会を開いている組織もあります。
産地問屋は新商品開発や新規販路開拓に取り組んでいます。問屋間の在庫補充の荷動きは鈍く重苦しい雰囲気が続いています。静岡県内・産地問屋の出荷額は、ピーク時には2000億円ありましたが2020年1340億円(256社)に減少し、茶系ドリンクは1520億円(13社)です。ライフスタイルの変化や嗜好の多様化により2007年以降、安い原料を使うペットボトル茶への支出額が、急須で入れるリーフ茶を上回っています。ドリンク原料に依存すればするほど荒茶価格は下がり茶農家に負担を強いることにつながります。負荷価値の高いリーフ茶、高品質ティーバッグ、海外市場など静岡県産が存在感を発揮できる戦略が急がれています。緑茶の輸出額は2021年は26%増の204億円と輸出拡大が続いています。世界各国で健康への意識が高まっていることが要因とみられ、菓子や健康食品の原料に使用される粉末緑茶や抹茶の需要が全体の65%を占めています。輸出先は米国50%、ドイツ10%、台湾8%と続きます。
消費地では「まん延防止措置」に入り来店客数が減っています。高級茶の販売も伸びていませんので、今年の仕入計画が立てづらいとの声も聞かれます。消費動向アンケート調査によりますと、今後1年間の家計支出を引き締めると回答した人は37%ありました。収入の減少や物価上昇(ガソリン・電気・ガス・油脂製品など)を理由に消費者の財布のヒモは依然固いままです。この30年で日本は他の先進国に比べて給与が安い国になってしまいました。そして新型コロナにより一層の下落傾向に転じました。社会保険料や消費税も上がり、家計に使えるお金がさらに減っている現実があります。
農林水産省の調査では、新型コロナ禍で経営環境が悪化し事業承継が難しくなっている実態が浮き彫りになりました。「廃業を検討」との回答は、小売業23%、外食業14%、製造業・卸売業で10%と厳しい現実を突き付けられました。これから改善され消費が順調に回復していくか、予断を許さない状況が続きます。
事業モデルの再構築
セブン&アイが業績が低迷している傘下の百貨店「そごう・西武」を売却する方向で入札実施を進めています。インターネット通販や郊外の大型ショッピングセンター・アウトレットに押されてきた百貨店は、コロナ危機が追い打ちとなり、さらなる苦境に立たされました。「そごう・西武」は売上高4306億円、資産価値1500億円と巨大ですが2021年は66億円の赤字決算でした。堤清二氏が率いた西武は1980年代の一億総中流と呼ばれた時代に「おいしい生活」というキャッチコピーにより「セゾン文化」の全盛期を迎えます。そして、大衆からの支持を集めた西武百貨店は業界で確固たる地位を築き、西武池袋本店は小売業売上で日本一になります。しかし、時代の変化とともに大型百貨店の価値が揺らいでいきました。「よくて高いモノ」を購入する消費者が減り、「安くて良いモノ」を求めるようになりました。ユニクロやニトリなどの低価格のカテゴリーキラーやネット通販、大型ショッピングセンターに顧客を奪われたのです。そして新型コロナによる外国人客の消滅、「まん延防止措置」による顧客離れが最後の一撃となりました。30年前に9.7兆円あった百貨店の売上高は2021年は4.4兆円と30年間で半分以下に落ち込みました。
西武ホールディングスは国内のホテルの名門「プリンスパークタワー東京」やスキー場やゴルフ場など31施設をシンガポールの外資系ファンドに1500億円で売却すると発表しました。日本一のホテル・レジャー企業でしたが、時代の変化に乗り遅れ新型コロナにより客数が激減してとどめを刺された形です。
東急ハンズがホームセンター・カインズの傘下で再生を目指すことになりました。創業時は生活雑貨専門店として各フロアに多数の商品をテーマ別に陳列する斬新なスタイルでワクワク感が人気を集めました。客との対話を通して最適な商品を提案するコンサルティングセールスは86店舗に広がりました。しかし、ネットで多様な商品を購入できるようになってから、強みも色あせ流通業の盛衰を象徴する買収劇となりました。
この30年間で人々の生活習慣は大きく変わり、消費行動も大きく変化しました。そこへ新型コロナ禍が、さらなる行動変化を求めました。そして、時代のうねりに対応が遅れた企業(そごう・西武、プリンスホテル、東急ハンズ等)は市場からの退場を求められたのです。
世界では、生き残りをかけて事業内容を見通す企業が多数あります。ダイムラーは「メルセデス・ベンツ」に社名変更し2030年までに全車種の電気自動車事業への転換に向けて業界トップの維持を図る狙いです。日本ではソニーグループが電気自動車事業に本格参戦する意向を表明しました。ホンダは航空機産業へ可能性を広げています。トヨタ・ヤマハは海を楽しむためのマリン事業へ拡大しています。ロイヤル・ダッチ・シェルは「シェル」に社名変更しました。エネルギー業界は脱酸素と温室効果ガス削減の方向に大きくカジを切りましたので、化学燃料事業を圧縮して再生可能エネルギー事業を拡大するためです。巨大IT企業フェイスブックは「メタ」に社名変更し、リモート会議や様々な情報交換が臨場を持ってできるメタバース(インターネット上の仮想空間)に事業拡大します。
「強いものが生き残るとは限らない。賢いものが生き残るとは限らない。変化するものだけが生き残る。」は進化論で有名なダーウィンの言葉ですが、変わらない企業は衰退し、変われる企業だけが生き残るという厳しい現実を目の当たりにしています。コロナ危機による新しい生活様式が浸透してリモートワークやネットショッピング、宅配、宅食、テイクアウト、電子マネーなどが加速していますので、生き残るために変革は待ったなしの状況です。今、事業モデルの再構築をするべき時代の真っ只中にいます。
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