更新情報
2022年4月 茶況_No.380
産地情報
令和4年4月15日
新茶摘採を間近に控えた茶園は、適度な降雨と気温に恵まれて急にもえぎ色に色付き始め新芽の生育は平年並みで順調です。静岡茶市場初取引は18日(月)、掛川茶市場の初取引は21日(木)大安に決まりました。前年よりは約1週間遅れですが、平年並みのスタートになります。取引が活発化するのは4月下旬とみられていますが、コロナ禍で需要が見通せない状況が続き、前年並みに仕入を予定している問屋と仕入量を若干減らす予定の問屋など対応が分かれそうです。生産者の経営安定のためにも値崩れを防ぎたいとの産地問屋の気持ちはひとつです。茶市場の取引担当者も新茶取引に向け粘り強く売っていかないと茶工場が無くなってしまうと気を引き締めています。
国内では緑茶消費に先細り感がありますが、海外では健康への意識が高まっていることから緑茶の輸出拡大が続いています。その輸出向けに有機栽培茶の専門工場が掛川市初馬に設立されました。掛川市北部の四つの生産組織が共同でつくる有機栽培茶専門の新会社「かけがわ有機の郷」です。五明茶業組合、原泉茶業組合、原泉農園、倉真製茶の4工場で構成し3年前に廃業した初馬の工場を有機茶専用で再稼働させます。一般的な荒茶は、それぞれの工場で今迄どおりに各々の工場で製造して、並行して有機栽培茶は専用工場で加工するという新しい試みです。佐藤社長は「経営を軌道に乗せ、後に続く若い生産者達が茶業に魅力を感じるような会社を目指す」と設立総会で挨拶しました。最終的には今の10倍の生産を目指しますが、新しい挑戦が後継者の継続になってくれればと期待されています。掛川市の農家の平均年齢は64歳で84%の農家が後継者がいないと答えています。高齢化と後継者不足は深刻な問題となっていますが、対応策の一助になればと思います。
産地問屋は新茶を受け入れる冷蔵庫内の整理や機械整備などの新茶期前の準備を進めています。生産者と摘採日、品質、仕入数量などの協議を詰めていますが、荒茶3千円以上の売り場確保が大きな課題となっています。コロナウイルス過で家庭・会社・外食・仏事需要が見通せない状況が続く中、慎重な計画と対応が求められています。年々の売上減少から体力のあるうちに廃業を検討する問屋も増えています。従来の販売ルートや商品だけでは先細りは避けられませんので新商品開発と新需要開拓が残された大きな命題です。
消費地では「予約新茶」の受付を継続しています。新茶という季節感が年々薄れて前年確保が目標です。先月、伊勢原市とさいたま市の老舗大手小売店2社の倒産がありました。売上がピーク時の2~3割にまで減少して苦しい経営が続いていたようです。社会の移り変わり、業界の浮き沈みを敏感に察知して変化に対応していかなければいけないこと、ニーズを見つけて「お客さまが喜ぶ物を作り対応すること」の基本を痛感しました。
食品や日用品値上げの波が続く中、年金の引き下げがあり消費に大きな影響が出ると心配されています。安売りで支持を集めた小売業が高価格にシフトし始めると低価格市場に空きができます。その隙間を突いて再び低価格をうたう新規参入者が登場します。「小売の輪理論」です。値上げが続くと「小売の輪」が回り出し、次の低価格プレーヤーが表れ、新陳代謝を促して時代は変化していきますが「顧客ニーズと顧客満足」は変わることのない永遠のテーマです。
山は富士 お茶は静岡 日本一
静岡県庁の正面玄関には「山は富士 お茶は静岡 日本一」と書かれた額縁と富士山と茶畑の大写真が飾られています。この響き良い標語は大正時代に作られた歌だそうです。昔から静岡県では「富士山とお茶」が静岡県民の誇りであり自慢でした。しかし、近年その誇りと自慢が揺らぎ始めています。日本一の座を巡って静岡県を追い上げている鹿児島県との競り合いが続いているからです。2021年の静岡県の荒茶生産量は3年連続で3万トンを割り込みピークからほぼ半減しました。静岡県の茶生産量は29,700トン、鹿児島県の茶生産量は26,500トンと生産量は静岡県が63年連続1位の座を辛うじて保っていますが、2019年の茶産出金額は静岡県251億、鹿児島県252億円と金額ベースでは、首位の座から陥落しました。30年前に700億円あった茶産出金額も約1/3の減少です。2015年に川勝平太知事が、日本一を維持するために「茶の都しずおか」憲章を制定し、静岡茶の市場拡大を目指しましたが、リーフ茶需要の減少という大きな時代の流れには抗えず、日本一を自負していた茶関係者には強い衝撃が広がりました。静岡県は山の斜面での茶づくりが特徴で、取引価格の高い一番茶の生産比率が高かったのですが、ペットボトルの普及からリーフ茶需要が低迷して一番茶価格も低迷したことが大きな要因です。1996年に500mlサイズのペットボトル緑茶飲料が登場すると年々そのシェアを広げ急須で入れる緑茶は急激に勢いを失っていきました。2000年にリーフ茶7割、ペットボトル茶3割だった緑茶消費の割合は逆転して、2020年にはペットボトル茶7割、リーフ茶3割の割合になりました。ペットボトル茶の原料は二番茶と秋冬番茶が使用されるために、一番茶が収益の柱となる農家の経営はますます厳しくなります。同時に急須で入れるリーフ茶を主に販売する消費地小売店も売上減少が顕著で廃業・閉店が続出しています。静岡県内の産地問屋にも売上減少から廃業するところが多数出ています。産地問屋(307社)の出荷額はピーク時に2000億円ありましたが、現在は3割減位で推移しています。リーフ茶を扱う県内約280社は元気がありませんが、ペットボトル原料を扱う県内約15~20社は好調を維持しています。
いよいよ生産量でも鹿児島県がトップか、との見方も強まっていますが諸手を挙げて大喜びかと思いきや、そうでもないと南日本新聞は記事にしています。鹿児島県も生産量が伸びているわけではないことを指摘。家庭の緑茶購入量が1970年の527gから2019年は266gと50年で半減し、リーフ茶の将来に不安があることを伝えています。 静岡県の茶農家数は20年前の1/4の5700戸まで減り、県内茶性産出額は、1992年の862億をピークに約30年で1/3以下に落ち込みました。今のままのやり方ではダメだということを痛感した静岡県は静岡県茶業振興計画(2022~2025年)を作成し生産者の経営安定と持続可能な農業の両立と再生を目指します。茶関連事業費は前年比3倍超の15億円が計上されました。新茶業研究センター「CHAOIパーク」建設費10億円、世界お茶まつり開催費9200万円、輸出向け有機茶支援拡充費5000万円などです。リーダーを養成する「農林環境専門職大学」も開校しました。業種を越えて技術やアイデアを持ち寄る「CHAOIプロジェクト」もスタートして茶の新商品開発や新たな茶の利用方法に向けたプロジェクトに取り組んでいます。県直営の「茶の都ミュージアム」もオープン5年目を迎え刷新を図りつつリーフ茶消費拡大策を進めています。山間部で生産される静岡茶の価値向上、茶園の基盤整備、新需要開拓、海外市場に活路を見い出そうと努めています。静岡県は「茶の都しずおか」の再生を懸け「お茶は静岡日本一」のブランド再興に向け懸命に力を尽くしていますが、時代の変化という大きな壁が立ち塞がっています。
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