更新情報
2024年12月 茶況_No.409
産地情報
令和6年12月30日
茶 況
本格的な冬に入り茶農家は敷草など茶園の防寒・防風・防湿対策などの茶園管理を進めています。元気な土づくりと元気な樹勢を維持することが美味しいお茶づくりの基本です。
「手を抜くとそのツケは必ず来る」と、こまめに茶園を観察して管理を徹底します。忘年会では出席者も年々減り続け、廃業する農家や閉鎖する工場もあったりして明るい話題は聞かれません。放棄茶園の活用方法を話し合うワークショップも各地区で開催されています。かつては稼いでくれた茶園が厄介なお荷物茶園になってしまった光景を各地区で見掛けるようになりました。太陽光パネルを設置する業者が営業に来ますが地域の景観のことを考えると慎重にならざるを得ません。製造する荒茶をすべてドリンク原料に切り替える工場もあります。一番茶から秋冬番茶まで単価は下がりますが収量でカバーして経営を維持できるように努力します。販売先は安定していますので気持ちは楽になります。煎茶上級茶の贈答需要と消費低迷から販売単価が下落して経営を圧迫していますので海外需要を視野に碾茶生産に切り替える工場も出てきました。茶専業から他の農産物との併作をするところもあります。イチゴ・山芋・栗・レモン・キャベツ・ブロッコリー・アスパラ・白ネギなどを栽培します。放棄茶園にビールの原料となるホップや木質バイオマス発電の原料となるユーカリを栽培する農家も出始めました。いずれも結果はまだ出ていませんが挑戦せざるを得ないのが現在の状況です。
産地問屋は仕上と発送作業に全力をあげて注文の対応に追われています。荷口が小口化していますので出荷数量は以前に比べて少なくなっています。日本の製造業を代表するホンダと日産が経営統合の協議に入りました。100年に1度の大変革期に入った自動車業界を生き抜くためです。日産に台湾のホンハイ精密工業から買収提案があり、国の指導も働いて今回の発表ではないかとの憶測も聞かれます。EVでは米テスラや中国勢に後れを取っていますので業界の構造変化に合わせた動きです。ソフトバンクはAI(人工知能)分野への投資を拡大する姿勢を強め、今後米国に15兆円、10万人の雇用を作ると発表し面会したトランプ次期大統領から大歓迎を受けました。中部電力はAIを活用して有機米の生産に取り組む新興の農業生産法人に6千万円を出資しました。AIによる天候の予測や衛星画像による「スマート農業」により作業を効率化する農場運営を次の事業創出に生かしたい考えです。いずれも次から次に起こる変化に素早い対応をしていますが、茶業界も変化に合わせた対応を求められています。消費地では客数の減少が止まらず厳しい状況が続きます。地元に愛されるお店を目指して、選ばれる理由と来て良かったと思ってもらえるように接客に努めます。人通りの少なくなった商店街の活性化など構造問題の改善にも努めます。群馬県と東京で老舗小売店の倒産がありました。毎年続く売上減への対応が遅れた結果とはいえ、他人事とは思えない不安な声も聞かれます。
京都の老舗福寿園がお茶文化を体験できるテーマパーク「福寿園山城館」を2025年3月にオープンします。国内外の観光客に向けた日本茶文化の発信拠点にして特に訪日外国人に日本茶文化をアピールします。2024年緑茶輸出額は過去最高の300億円超えが確実視されています。国内消費は低迷していますが海外に向けての出口戦略となります。自民公明両党で過半数を割り政権運営は極めて不安定になっています。少子高齢化が進み、経済指標の数値が落ち込み、巨額の債務残高を抱えています。日本を再生するために中長期的な視野で施策を講じていかねばなりません。日本も茶業界も待ったなしの状況に置かれています。
半農半X (はんのうはんエックス)
現在農業をしたいと思っている人には3つの選択肢があります。「専業農家」「兼業農家」「半農半X」の3つです。「専業農家」は農業だけを営んで生計を立てていますが収入が安定しにくいという一面もあります。「兼業農家」は農業以外にも収入の柱となる仕事を有していて農業以外の仕事で世帯収入を安定させやすい特長があります。「半農半X」は今注目されているライフスタイルの一つで農業とそれ以外の別の何かである「X」を両立していこうとする「小さな農業」です。農業の負担が大きくなり過ぎなければ余力が生まれ、その余力を自分の好きなことである「X」につぎ込む自身の理想に合わせたライフスタイルです。その背景には物やお金ではなく心の豊かさを求める人の増加があります。「X」に当てはまる職業は介護士や保育士として人のために働こうとする人、画家や作家など自身の夢を追い求める人、無収入のNPOやボランティア活動をXに選ぶ人もいます。お金では語れない心の豊かさを実感できます。半農半Xは地方や農業の活性化のために注目されている取り組みの一つですが、半農半Xを実践すれば以前よりも収入が下がる可能性が高く以前と同じ水準の生活を維持するのは難しいので、家族にもしっかりと理解してもらう必要があります。2020年に公表された「食料・農業・農村基本計画」には半農半Xや2地域居住を実践する人を増やす方策が示されました。今年改正された「食料・農業・農村基本法」には多様な農業者による農業生産活動が行われることで農地の確保が図られるように配慮するとの文言が入りました。1961年の農業基本法施工以来、国の柱は一貫して農業一本で生きていける「専業農家」の育成でしたが、後継者不足と高齢化に直面し、多様な農業人材も農地を守るのだと位置付して潮目がハッキリ変わりました。安部政権時の2013年に農業の成長戦略として専業農家や農業法人などの担い手が耕作する農地の割合を5割から8割に拡大する方針が示されました。次世代の担い手に農地を集約して農業の規模を拡大する計画でしたが、兼業農家や小規模農家から農地を引き剝がすことになってしまいました。農村に多くの人がいた時代と比べると若者の農村離れから後継者不足・労働力不足などで規模拡大は限界に近づいています。この夏「令和の米騒動」と呼ばれ、お米が品薄状態になりました。そして、令和の米騒動はコメ不足時代を告げる序章ではないかと心配する声も聞かれるようになりました。国は農業の法人化や大規模化を求めますが、コメ農家の6割は赤字、米農家数は10年前の4割減とのデータもあります。
静岡県の茶産出額は1992年の862億円をピークに2023年は223億円と1/4に縮小しました。国内消費の低迷を背景とした販売収入はピークの7割減と存続の悩みが生産現場に重くのしかかっています。茶農家も生き残りを懸けて変化しています。耕作放棄茶園をブドウやイチゴの観光農園に、レモンやユーカリ栽培に挑戦する農家もあります。レモンは大部分が輸入品で国産品は貴重品として高値で取引されています。脱炭素社会の実現に向けて木質バイオマス発電の普及が進んでいますので、荒廃茶園を整備してユーカリ栽培を進める農家もあります。ユーカリは成長が早く1年半で10m超の樹高に成長するため木質バイオマス発電の原料となるユーカリ木質チップに期待が集まります。
日本全国で耕作放棄地が増えていますので、自治体も動いています。島根県・長野県・香川県などは大きな農業と小さな農業が協調できる「半農半X」の経営モデルを作りました。国も人口減少によって地方の活力が低下していますので、地方の活力を取り戻す政策を進めています。そして、元気な地方から元気な日本を作るのがスローガンです。日本の農家の平均年齢は69歳と高齢化が進み先行きは見えません。「農家はもう絶滅危惧種だ」と自虐的に話す人もいますが、農業を農地を守らなければいけないという流れに潮目が変わってきています。「兼業農家」であれ「半農半X」であれ「専業農家」と「小さな農業」が協調して、安心して生産できる農業を後世に引き継げますようにと願うばかりです。
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