更新情報
2025年5月 茶況_No.414
産地情報
令和7年5月20日
茶 況
一番茶の摘採が終了した茶園では、施肥などの二番茶に向けた管理作業を進めています。
新芽は主に夜間に成長しますので、蒸し暑い夜が続きますとよく伸びますが、今年のように夜間の温度が低く乾燥していますと成長が遅く芽伸びを待っての製造が続き製造を休止する工場もありました。後半の盛期になっても生葉が予定した8割程度しか集荷できずにヤマ場がないまま終了を迎えました。生産量は前年比15%~20%減、下値が底堅く推移しましたので単価は10%~20%高く、売上金額では90%~100%を確保できました。新茶前の不安なムードを思えば、まずまずの結果ではないでしょうか。昨年は「この状況が来年も続くならもうやっていけない」との悲痛な声が聞かれましたが、今年は「昨年の相場が異常だった。今年の相場が普通でなければ茶農家はいなくなる」の声に変わりました。昨年は一番茶で二番茶価格まで出てしまったので、二番茶製造を取り止める工場もありましたが、今年は二番茶の確保に向けて需要は底堅いと予想され、一番茶以上に仕入競争が過熱する可能性もありますのでドリンク業者は必要数量の確保が難しくなるかもしれません。二番茶は製造コストを下げるために各地区の代表工場へ生葉を持ち寄って一ヶ所で製造する地区もあります。
産地問屋は仕上・発送作業を進めながら二番茶に向けた仕入計画を立てています。
4/21の茶市場開きより始まった今年の新茶は5/16の掛川市北部・原泉地区の入荷をもって終了しました。途中雨による中断が4日間入りましたが、適期摘採が続き品質は最後まで落ちませんでした。各問屋とも良品確保に向け、引き合いの強い日が続き下げ幅が穏やかでしたので荒茶2千円台に荷もたれ感があります。そして安い価格帯が予定数量の仕入が出来なかったとの声も聞かれます。茶専門店の閉店増により上級茶は弱く、量販店の買いにより中級茶はやや強く、ドリンク関連業者の数量確保により下級茶は強くなる流れが続いています。今年の減産要因としては
①昨年の猛暑と雨不足による茶の木の衰弱
②摘採期の夜間の低温により頂芽だけが伸びて側芽の成長が遅れた
③海外向けの抹茶原料となる碾茶に一部移行したために荒茶への供給量が減少した。
海外向けの抹茶原料の買いも入り静岡の茶業情勢は大きく変化しています。
消費地では「新茶商戦」が終わり「中元商戦」と「水出し煎茶」の準備を進めています。急須で飲む消費が年々減少傾向にあり、新茶商戦も以前のような活気は見られなくなりました。生活必需品の値上げが続き、店頭ではその影響を強く感じます。生活スタイルも変わり、自家製緑茶を冷蔵庫から出して飲む生活スタイルを勧めるお店もあります。
通常は10月に実施する「秋整枝」を、一部茶園で3月上旬に整枝する「春整枝」に挑戦している工場もあります。春整枝は新茶の摘採が遅れますので取り入れられていませんが、防霜ファンの電気代削減、近年の上級茶の需要減少、生葉収量の増加、摘採時期の分散等のメリットも上げられ春整枝を実施する茶農家も出てきました。
浜松いわた信金は「有機茶応援ローン」という全国的に珍しい取り組みを始めました。有機栽培茶への転換には3年程度かかり、3年間収入が途絶えますので、当初の3年間は利息の返済だけで済む仕組みです。低迷する国内需要と拡大する海外需要。海外での抹茶需要は急速に伸びていますので、今年は抹茶原料となる碾茶の製造を始める工場も増えました。静岡の茶況は今年を境に大きく変わりました。
「20世紀茶商流転」 時田鉦平
25年前に書かれた藤枝・藤栄製茶㈱時田鉦平氏の「20世紀茶商流転・戦後55年間」が手許にあります。『歴史が人間行動の記録なら茶商達の現在も又茶業史そのものと云えるでしょうか』の序文で始まる文脈には、25年前の茶況と現在の茶況を予測する予言が書かれていました。そして120年前に岡倉天心が世界に紹介した「Matcha」のことも記されています。『今や緑茶知名度は90%を超え、ドリンク・粉末茶・ティーバッグ・健康食品等消費多様は止まる所を知らない。そして急須利用者は減少し、簡便さが好まれるドリンクに家庭内喫茶が冒される。この20世紀は前も後ろも上も下も総て流転であった。存在することは存在しないことであり、流転こそが唯一永遠となり得ることを教訓として残した。それは常に茶業界に於ける原点への回帰を意味し、遠くは茶聖陸羽の「茶経」を、近くは岡倉天心の「茶の本」精神の現代的再体験となる。現代の不完全なものの中にこそ意義を求められるべきであろう』25年後の茶業界を予測したような一文です。さらに『全国の消費量は相変わらず下降を続け、茶専門店の売上も下りボタンを押し続けているエレベーターである』そして苦言も『この時期多く語られた衰退の原因は、成長成熟期に種が撒かれていたわけである。自らの努力不足、経験不足、能力不足、勉強不足による日和見、無力さ、ミスリード、マンネリ化を問われる等、いつの時代でも追及の言葉は絶えなかった。21世記を和の時代、心の時代と希求する以上、専門的な茶商の出現が期待される。IT時代の空虚な便宜性追求の裏には手間暇かけた本物志向と文化が不可欠となろう。21世紀の茶商の成長も差別化の中で洗練される。これからは、分け隔てなく利益を分配できる時代ではない。格差を生み易い成長期になることが予想される。物事の本質を知ろうとするとき、その歴史から学ぶことは重要な条件となる。21世紀のお茶屋の姿が如何なるものであるかは興味がつきない』そして、岡倉天心の「茶の本」に学べと言っています。美術思想家の岡倉天心は1906年にニューヨークで英語版の「茶の本」を出版し西洋社会へ、日本やアジアの美意識や価値観について熱く語りかけました。そして、お茶が持つ繊細な香りや味わいを伝えようとしました。「お茶の魅力は、ワインのおごり、コーヒーの自意識、ココアの無邪気な作り笑いがない世界だ」と紹介しています。抹茶は「粉にして泡立てた茶」と英訳されていますが、今は世界で人気の「Matcha」になり、健康スーパーフードとして抹茶ラテ、抹茶チョコ、抹茶アイスとしてSNSで話題となっています。インバウンド観光客のお土産の定番となり、数量が確保できずに「一人一個限定」と販売数量を制限しているお店もあります。岡倉天心が見たら抹茶の想定外の広がりに東西の架け橋になったことを喜ぶでしょう。25年前に時田鉦平氏は、年々減少傾向のリーフ茶の先行きを心配し、茶業界の不振を憂い、末期症状を生み出さぬとも限らないと警告しています。そして最後に『現代の不完全なものの中にこそ意義を求められるべきであろう。四季は移り変わり、落葉の後に新芽の準備が始まる。2000年12月記』で終わっています。
時田鉦平氏は、天国から現在の茶業界を見て、何を思い、何を語り、何処へ向かえと導いてくれるのでしょうか。私は時田鉦平氏が「不易流行」変えてはいけないもの、変えなければいけないものを教示してくれたように思います。
25年前の静岡県茶生産額は798億円、一番茶平均価格は3137円でした。今は生産額は約1/4、平均価格は約2/3と見る影もありません。しかし、緑茶の輸出額は昨年は過去最高の364億円を記録しました。牽引役は「Matcha」です。ドリンク原料を早くから扱った問屋さん、海外を視野に早くから抹茶を扱った問屋さんは、昔も今も元気です。
私達も今後の茶業界の行先を予測して、的確に次の一手を打たなければ、暗くて長いトンネルを抜け出すことはできません。
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